女子大生の洋子にラブホテルに置き去りにされてから早1カ月。
その間、飲みに行かへん?映画見たいなあとメール攻勢を続けたものの、色よい返事をもらえずにいた。
そんなある日、洋子から1通のメールが来た。

映画そのものはもう見るべきところはないが、その先に洋子のヌードショーが待っていると思えば、お安い御用である。

現れた洋子の服装を見て、ガッカリした。オレはミニスカートが大好きなのに、パンッルックとは。失望のあまり
「今日はミニスカートじゃないの?」と口に出したら、洋子から
「え、会っていきなりその話題」と突つまれてしまった。
「今日はちょっと秋を先取りしたお洋服だからさあ、露出は少ないの」と、オレをペシペシ叩く。その姿は傍から見たらカップルそのものだ。
それを受けて、「いやいや。まあ、それも似合っているから大丈夫だよ」と軽く流すオレも、もはや素人童貞と郷揃されたかつての姿ではない。
これから始まる長い夜に思いを馳せながら映画館へ。本編が始まる前にはラブラブトークまで交わされた。
「私、何か食べたいな」
「何が食べたいの?」
「アイスとか」
「アイスか、よっしゃ買ってきたるわ。待つときや」
単におごらされているだけだろ!とつっこむのは早計というものだ。
「ロクなものがなかったから、抹茶のソフトクリームにしたよ」
そう言うオレに洋子は笑顔で答えたのである。
「平気だよ。はい、まずは慎吾さんからひと口、あ〜んして」
これ、これだよ、オレの求めていたものは!
肝心の映画は退屈だった。
手を握ったりすると嫌がられることは前回の『バッドマン・ビギンズ』のときに学び重々承知している。上演中はこの後どうすべきか戦略を練ることと、洋子の裸を思い浮かべるぐらいしかやることがな
かった。上映後は、居酒屋に移動した。オレにとってはここからが本番である。戦略は一つ、酒を飲ませるだけだ。
まずはビールで乾杯し、「オビ・ワン、最高!」「アナキンが可愛そうだ」などと、映画の感想を述べ合う。
そうこうするうちに、洋子が日本酒をオーダーし、猛烈なピッチで飲み始めた。自然と話題は就職活動の愚痴に。
さらに洋子は、某有名企業のおっさんからしつこく食事に誘われていることを告白し始めた。
「そんなおっさんとどこで知り合うの?」
「この間、新宿のスタバで勉強していたら、声をかけられたの」
「で?」
「その人が名刺を見せて『僕は人事にも携わっているから、力になれると思うよ』って。
そのとき話だけは聞いたんだ。
でも、また会って食事しながら相談に乗ってあげるよって何度もメールが来るから困ってるの。どうすればいい?」
「休みの日に、ええ歳したおっさんがスタバで何してんねんな。としまえんにでも子供を連れてってあげろよとオレだったら逆に説教してやるね」
「その人バッイチで、子供もいないんだって」
めらめらと嫉妬心が燃え上がってきた。映画を箸り、食事を箸り、なんとかここまでたどり着いたというのに、どこぞのオッサンに横取りされてたまるか。
「就職の話だけで食事に誘う必要はないやん、おかしいよ」
「…わかった。用心する」
納得する素振りを見せる洋子。そもそもこの相談事、いったい何のために口にしたのだろう。オレの本気度を試すためのカマかけか。私はモテるのよ、とアピールしたかったのか。それとも本気で悩んでいて、単なる友だちのオレに打ち明けただけなのか。
いずれにせよこの一件を聞くだけでも、普段から洋子は隙だらけの様子を見せていることがわかる。オレのナンパについてきたくらいだ、他の男にフラフラしてもおかしくない。これは用心せねば。
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